NHK高校講座・家庭総合 第37回
これからの住生活 ~持続可能な「家」とは?~
北と南で気候風土が大きく異なる日本のなかで、昔の住居には地域特有の特徴がありました。世界でも、その気候風土やその地域ならではの素材を使った住居の特徴があります。今回は伝統的な日本の民家や世界の住居から、暑さ寒さをしのいで快適に過ごすための知恵と工夫を学びます。さらに持続可能で、人にも環境にも優しい住居についても考えていきましょう。
NHK高校講座 番組監修:兵庫教育大学教授 永田 智子
1:気候風土に応じた住居
日本の伝統的な民家には、気候風土に合わせた、さまざまな知恵や工夫があります。
2:世界の住居と比べてみると?
世界の伝統的な住居は、地産地消の素材を巧みに使っています。
3:エコな住居
持続可能な、人にも環境にもやさしい「住居」について、考えていきましょう!
「家庭総合」では、これから生きていくために必要な知識や技術を、りゅうちぇるさんと一緒に学んでいきましょう!
りゅうちぇる 「将来は昔の海外ドラマに出てきそうな、大きいおうちを建てたい、りゅうちぇるでーす!」
今回のテーマは「これからの住生活 ~持続可能な『家』とは?~」
現役高校生の、心さん(高3)、絢音さん(高1)と一緒に、私たちの暮らしに欠かせない「家」、快適な「住まい」のことについて考えます。
3つのポイントは「気候風土に応じた住居」「世界の住居と比べてみると?」「エコな住居」。
持続可能な「住生活」を実現する方法について、探っていきましょう!
りゅうちぇる 「みんなの家では、夏の暑さや冬の寒さに対して、なにか工夫しているかな?」
心 「私の家は、夏は西日がすごく(差し込んで)て、すごく暑いんですよ。なので、西日が来る時間になったらシャッターを閉めてちょっと涼しくしたり、庭に打ち水をしたり(工夫している)。」
りゅうちぇる 「絢音ちゃんのところはどう?」 絢音 「私の家は、夏はエアコンで、冬は床暖房をつけてて…。」
りゅうちぇる 「いいね!僕の家は、夏も冬もエアコンにお世話になっています。でも、電気やガスがない昔って、どうしていたんだろうね!?実は、伝統的な日本の民家には、暑さ寒さをしのいで快適に過ごすための、さまざまな工夫や知恵があったんです。」
日本の伝統的な民家には、気候風土に合わせた、さまざまな知恵や工夫があります。
かやぶき屋根が印象的な古民家。江戸幕府 五代将軍・徳川綱吉が生類(しょうるい)あわれみの令を出した、1687年に建てられました。(旧北村家住宅 旧所在地・神奈川県秦野市)
ここで、快適に暮らすための工夫をチェック! まずは、入り口から続く「土間」です。 農作業や煮炊きをする作業場として、「土間」は使われてきました。
川崎市立 日本民家園 松村さん 「土間は、一般的に言われていることは、夏は涼しくて冬は暖かい、というところだと思います。」
たとえば夏の暑い日、外から土間に入るとひんやり涼しく感じられます。 その秘密は、土間の「土」です。 土間の土は1年を通して温度の変化が少ないため、夏でも外の暑さに比べて涼しく感じられるのです。 反対に、冬の寒い日に土間に入ると、暖かく感じられます。
さらに、古民家の「かやぶき屋根」と「土壁」の働きに注目しましょう!
かやぶき屋根に使われる「かや」は断熱性が高く、束ねることで空気の層が生まれ、保温力が増します(断熱効果)。また、通気性にもすぐれ、水分や湿気を蓄える性質で室内を冷やします。
こちらは、岐阜県 白川郷。 合掌造り(がっしょうづくり)の民家のかやぶき屋根に蓄えられた水分が、日の光に温められて「水蒸気」になっています。 このときに熱を奪う「気化熱」の作用によって、室内が冷やされるのです。
「土壁」もかやぶき屋根と同じように水分を蓄え、「気化熱」によって室内を冷やします。 そして土壁も、「断熱効果」にすぐれています。
古民家にくわしい建築家 丸谷 博男さんに、「土壁」の断熱と気化熱の効果を調べる実験をお願いしました。
湿った土・乾いた土・一般的な住宅の断熱材に、赤外線ランプをあてて内部の温度を測ります。
1時間後、一般的な断熱材は(内部の温度が)約31℃も上昇しました。 それに比べ、乾いた土(の内部の温度)は14℃しか上がっていません。 土を原料とした「土壁」の断熱効果は、一般的な断熱材よりも高いことがわかります。
湿った土(の内部の温度)は、わずか8℃の上昇。 土の中の水分が蒸発して、「気化熱」の作用が起きたからです。 「土壁」は、湿度を調節する役割も果たします。
古民家にはさらに、室内への日の光の取り入れ方にも工夫があります。 家の南側にある「縁側」。 「軒(のき)」が深く張り出しているため、太陽が高く昇る夏は室内に強い日ざしが直接入るのを防ぎます。 一方、太陽が低い位置にある冬は、日ざしを取り込んで(縁側は)暖かくなります。 日本の風土で木や土の持つ力を最大限に生かす知恵と工夫が、古民家に込められていました。
松村さん 「どの民家も、自然と共存しながら快適に暮らすための知恵と工夫の歴史がうかがえます。(冷暖房などに)多くのエネルギーを使う現代の住宅は、(古民家に)見習う点がたくさんあるんではないでしょうか。」
心 「私、小学生の時に(日本民家園に)行ったことがあって、真夏にあの建物(古民家)に行ったんですけど、外はめちゃくちゃ暑いのに(古民家の)中に入ったら、ひんやりしてて『すごーい!』ってなったのを思い出しました。自然のものを使って夏は涼しく、冬は暖かくする知識を昔の人が持っているのがすごいなって思いました。」
りゅうちぇる 「実際、古民家の中と外で、どれくらい温度の違いが出るのか気になるよね?」
かやぶき表面の温度土間の温度 9月の日中に、古民家の室内と室外の温度を計測したデータを見てみましょう。 外気温が 約30℃ そのとき、かやぶき屋根の表面は 40℃ 室内は 23~25℃ の間を保っているんです。 これが、かやぶき屋根と土壁の「気化熱効果」!
そして注目が土間です。 外気温が27℃から、30℃に上がったのに、 土間は24℃から22℃に 温度が下がりました。 これも「気化熱効果」の影響です。
りゅうちぇる 「夏の室内の推奨温度は28℃、でも古民家の中は約25℃。これならエアコンを使わなくても、快適に過ごせそうだよね。」
心 「あたりまえのように今まで見てきた土たちが、そんな効果をもたらしてたんだっていうのが…」
りゅうちぇる 「ねーっ!土ってすごいよね。土みたら手を合わせちゃいそう。」 心・絢音 「(笑)」
世界の伝統的な住居は、地産地消の素材を巧みに使っています。
りゅうちぇる 「今度は世界の住居に注目してみます。日本とはまた違った知恵や工夫があるはず!」
東南アジアのブルネイ。 川の上に広がるのは、世界最大の水上集落、「カンポン・アイール」です。 広さ約10平方km2に、約4万人が生活しています。 年間平均気温は約28℃、一年を通じて高温多湿なブルネイでは、水上に住むほうが涼しくて快適です。
また、「高床住居」は通気性にすぐれていて、熱や湿気を外に逃がしやすいというメリットがあります。
電気や水道などのインフラが整備され、テレビやインターネットも利用できます。 でも、一年中、涼しい水上生活にエアコンは必要ありません。
ところ変わって、こちらは乾燥したアフリカの砂漠地帯。 マリ共和国 ジェンネの家は「土」でできています。
材料は泥を固めた「日干しレンガ」。 家づくりの様子を見てみると、「日干しレンガ」を積み上げ、しっかりとした厚みのある壁を作ります。 積み上げた「日干しレンガ」の上に、さらに泥を塗り重ねたら完成です。
この泥は、近くを流れるニジェール川でとれる、粘り気の強い「土」。 先祖代々、家づくりに使われてきました。
昼と夜の温度差が大きい乾燥帯では、住居の窓を小さくして通気性を低めます。 そして、壁に土を塗ることで断熱性を高め、室内の温度を一定に保つ工夫をしています。
続いて紹介するのは、冬にはー30℃まで気温が下がるモンゴルで、遊牧民が暮らす伝統的な住居が「ゲル」です。
ゲルの壁に使う「フェルト」は、羊の毛を圧縮して作ります。 丸めた羊毛を馬で引くこと2時間。 できあがったフェルトで、「ゲル」の壁と屋根を覆います。 遊牧民は牧草や水を求めて移動しながら生活します。 そのため、組み立てや解体が簡単にできるのも「ゲル」の特徴です。
羊毛のフェルトは保温性が高く-30℃の寒さにも耐え、さらに吸着熱によって室内の温度をあげる効果もあります。 「ゲル」には厳しい冬も快適に過ごす遊牧民の知恵が詰まっています。
心 「自然の素材を活用して家を造っていけば、環境にもやさしく、自分たちも住みやすい(住)環境をつくれるっていうのは、すごいなって思いました。」
りゅうちぇる 「本当だよね。」
持続可能な、人にも環境にもやさしい「住居」について、考えていきましょう!
ここからは、番組の監修を担当する、兵庫教育大学 教授 永田 智子先生と一緒に考えていきます。 りゅうちぇる 「永田先生、(持続可能な)“エコな住居”って、どういう『家』のことなんですか?」
永田先生 「ごみを減らすためのアクションとして“4R”ってありますよね?持続可能な家(エコな住居)の考え方も“4R”と似ています。例えば『古民家カフェとしてリユースする』・『解体した材料を別のところでリサイクルする』・『修理・リペア』・『リフォーム』などがあります。」
サイクルやリフォームのほかにも、持続可能なエコな住居があります。 “エネルギー消費の少なさ”に注目します! 埼玉県春日部市に住む 久保田さん一家は、2016年、長女の出産を機にこの家を建て、家族4人で暮らし始めました。 住み心地はいかがですか!?
妻・真理子さん 「1年中(室内の)気温が変わらない。室内に入ると、夏は涼しくて、冬はほっこりと暖かい。」 この家では、エアコンはまったく使いません。
久保田さんの家の室内の温度と外気温とを比べたグラフを見てみると、外気温(緑色の線)に比べ、室内の温度(ピンク色の線)は一年を通じてほぼ一定になっています。その理由は?
ひとつめの理由は、換気システム。 寒い日の工夫でチェックしましょう。 太陽の光で暖められた屋根は冬でも高温になります。 寒いときにはこの熱をいったん家の床下に送り込んでから、すべての部屋に流す仕組みです。
なぜ床下に熱を送るのかというと、床下に「土」があるから! まず、床下に暖かい熱を送り、温度変化の少ない土に蓄熱します。 そのあと、それぞれの部屋に送ることで、室内の温度を一定に保ちます。 ここに、古民家の「土間」の知恵がうまく活用されています。 外の気温が特に下がった時にだけ使うのが「冷暖房パネル」。 パイプの中に温水を流し、部屋の温度を調節して寒さをしのぎます。
土間のほかにも、古民家の知恵が生かされているのが「土壁」です。
夫・智行さん 「家じゅう全部、同じ『けいそう土』・土を(壁に)使っているんです。壁に触るとわかるんですけど、ほんのり温かい。」
壁の表面に使っているのは「けいそう土」。 保温性・吸湿性にすぐれた、天然の鉱物です。 霧吹きで水分を吹きかけると、ほんの一瞬で水分を吸収します。
さらにこの壁の中には、もうひとつの「土壁」が潜んでいます。 「石灰」と「けい石」を調合して造った「けい酸カルシウムのボード」です。 断熱性・保温性・吸湿性にすぐれた、土台となる「土壁」です。 ふたつの「土壁」の機能によって、久保田さんの家の室内の温度と、湿度も、(年間)ほぼ一定に保たれています。
この住宅を設計したのは、古民家の土壁の実験にも協力してくれた、建築家の丸谷さんです。
丸谷さん 「古民家を見ると、木と土と草で主に造られています。室内環境をつかさどるなかで土壁の力っていうのは非常に大きなものを感じているんですね。」 エアコンに頼らず、一年中、快適に過ごせる『エコな住居』。 古民家の知恵が大切に受け継がれていました。
絢音 「そういう古民家の工夫って、これからの(持続可能なエコな)住宅を造るうえでの、ヒントになるんじゃないかなって思いました。」
心 「エコな住宅って、太陽光パネルを使うとかそういうものだと思ってたんですけど、 床に土を入れたり、壁にもそういうもの(土)を使っていく家が、将来的には環境にもやさしくなっていくんだろうなって思いました。」
永田先生 「そうですね。ほかにも建築材料の再資源化の取り組みも進んでいます。例えば、ほかの産業で出た廃棄物のくず鉄を鉄筋にして建築材料にしたり、建築廃棄物である木くずを肥料の原料や燃料チップにしてほかの産業で利用したりするなど、建築産業だけにとどまらず、社会全体で循環させていく例もあります。」
りゅうちぇる 「なるほど。リユースやリサイクルなど、環境のことを意識したエコな家、これからもますます重要になってきますね。」
NHK高校講座・家庭総合 第37回
これからの住生活 ~持続可能な「家」とは?~
2020年12月5日 春日部・久保田邸を取材
2020年12月8日 土壁の断熱と気化熱の効果を調べる実験を取材
2021年2月4日 14:40~15:00放送