さまざまな火災や震災、シロアリ・腐朽の被害、シックハウスの被害などを経験して、現代の家づくりは技術や素材を開発し、対応してきました。最近では、環境負荷を減らす省エネ化や、より以上に耐久性を高めた「長期優良住宅」の規格なども定められています。そのため、現代の住宅には、基本的な性能の面で何ら問題はないように感じられるかもしれません。
しかし、現実には、現代の最良の家づくり技術が生かされている住宅ばかりではありません。手抜き工事などではなく、つくり手はしっかりした技術と素材で建てているつもりでも、知らず知らずに弱点を持つ住宅を建ててしまうことがあるのです。
そのひとつが、壁体内の結露による柱や土台などの構造体の腐朽です(図1~3)。耐震性を高めるために使用する合板などによって、壁体内の湿気が抜けにくくなり、結露などを起こして、木材の腐朽を生じたり、有害なカビの発生を招いたりするのです。前項(10頁)で述べたように、複雑に関連し合った住宅の性能は、単純にどれか一つの性能だけを向上させようとすると、その他の性能に影響がでるということのひとつの例なのです。
もちろん、耐震性を高めたからと言って、必ず耐久性が損なわれるということではありません。たとえば合板の替わりに通気性のあるボードを用いる、壁の中に湿気を排出する通気層を設ける、などの工夫によって、耐震性と耐久性を両立させることができるのです(図4)
図1 現代の住宅に潜む弱点は、耐久性に問題が多い
冬、湿度の高い室内から壁体の中に湿気が入り外に抜けないと、壁体の中で結露が発生する。これによって土台や柱などの構造体にカビが生え
たり腐朽が生じるなど、住宅の耐久性を損なう事例が多い。
この対策として、室内から壁体内に湿気が入らないよう気密シートを貼る方法を取るケースが多いが、シートの隙間などから湿気が一度侵入すると、却って問題を生じやすい。
図2 骨組みだけでは、地震の強い力がかかると傾いてしまう。
図2-2 骨組みに合板などを組み合わせて強い壁にすることで、地震の強い力にも耐えられるようになる。
図3 合板などを張った壁は湿気が籠り結露しやすい
合板などを組み合わせた強い壁は、内部に入った湿気が抜けにくい壁になりやすい。壁の内部で結露が発生すると、柱などの腐朽の原因となる。湿気を入れない、湿気を抜く、結露させないなどの工夫が必要になる。
図4 耐震性を確保しながら湿気の排出も可能な工法の例
構造用ボードとしての強度を持ち、同時に透湿性もあるボードを使用して、室内の湿気を外壁内部に滞留させず排出する工法の例。ここでは、冬に湿度の高い室内から、湿度の低い屋外へと移動する湿気への対策を示している。夏に冷房によって温度の下がった室内に、高湿の外気が移動する場合の対策は●頁参照。